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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(オ)574号 判決

主文

理由

上告代理人大橋茂美、同村橋泰志の上告理由について

原判決に徴すれば、被上告人は、上告人から振出交付を受け所持していた金額四〇万円、受取人欄白地の約束手形一通を喪失し、右手形につき除権判決を得て、上告人に対し手形の再発行を求めたが拒絶されたので、手形再発行義務不履行による損害賠償として手形金額相当の四〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四六年三月二日から支払ずみまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める、というのである。原審は、被上告人の主張どおりの事実を適法に確定したうえ、手形を喪失した者は除権判決を得ることにより手形債務者に対し手形の再発行を請求し得るものとし、かつ、手形債務者がこれを拒んだときは手形再発行義務不履行を理由とする損害賠償を求めることができるものと解し、被上告人の請求を認容した。

しかし、手形を喪失した者がその手形につき除権判決を得ても、手形債務者に対し手形の再発行を請求することはできないものと解するのが相当である。けだし、手形を喪失した者は、除権判決を得ることによつて手形の所持に代えて手形上の権利を行使する形式的資格を与えられるにとどまるものであるところ、除権判決を得たことにより手形再発行請求権を認めることになれば、手形を喪失した者に手形の所持に代わる資格を付与するにとどまらず、これを他に流通させることのできる地位を取得させるという効果まで与えることとなるのであるが、このようなことは、除権判決制度がおよそ予想しないところであり、明文の規定のない限り、許されないものといわなければならない(原判決が引用する商法二三〇条は、株券が、株式会社の構成員たる株主の地位を継続的に表象するという性質を有することに鑑み、これを喪失した場合に除権判決による再発行を認めたものであるから、右規定を、株券と性質の異なる手形を喪失した場合についてまで類推適用することはできない。)。この理は、喪失した手形が白地手形であり、その再発行請求が白地部分の補充を目的としてされた場合についても、異なるところはないと解するのが相当である(最高裁判所昭和四九年(オ)第五八四号同五一年四月八日第一小法廷判決・民集三〇巻三号登載予定参照)。これに反する原審の判断には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れないところ、本件は、本件約束手形の書替前の約束手形による請求、利得償還請求権に基づく請求、及び不当利得返還請求権に基づく請求について、更に審理の必要があるので、これを原審に差し戻すのが相当である。

(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 吉田 豊 裁判官 本林 譲)

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